約束の時間に到着し、お店の中を覗いてみると、お客さんとスタッフの方が楽しそうにお話をしていた。明るい笑い声を聞いていると、こちらも何だか元気が出る。都営三田線 板橋区役所前から歩いて約5分。仲宿商店街のなかほどにある小さな雑貨屋「mederu」だ。お客さんが出てこられるまでちょっと待ちましょうか、と取材班で会話をし、外に並ぶ商品たちを眺めていると、懐かしいものが目に入った。「給食セット」だ。給食のときに机に敷くランチョンマットと巾着袋。しかも近隣小学校対応と書かれていて、サイズが微妙に異なるものが並んでいた。これを見て、ああ、きっとここはいいお店に違いない、と確信めいたものを感じる。ほどなくして、スタッフの方が「お待たせしました」と笑顔で出迎えてくれた。ナチュラルでやさしいお店の雰囲気をそのまま体現したようなその人は、2代目店長の中山朗子さんだ。もともとは、2008年頃にオープンしたmederu。その後、初代オーナーがお店を離れることになり、当時中野の子ども服店「FALCON HILLS(ファルコンヒルズ)」のスタッフだった中山さんが、縁あってこのお店を引き継いだ。名前はそのままに、FALCON HILLSの姉妹店としてリニューアルし、店舗自体も改装。かつては作家ものの雑貨をメインに扱う小さなお店だったが、それらに加えて子ども服やレディースの衣類、ギフト雑貨なども販売するセレクトショップとして運営しはじめた。店内にはカラフルで可愛らしい雑貨や衣服がぎゅっと詰め込まれていて、まるで宝箱のような空間だ。リニューアル以前からお付き合いのある方を含め、現在は30名ほどの作家さんたちの作品が並んでいる。布小物、アクセサリー、食器、フラワーアレンジ、バッグなど、そのほとんどが1点もの。作家さんから持ち込みがあった場合は必ず審査をして、通ったものだけを店頭に並べるようにしている。「趣味の延長ではなく、プロ意識と責任感を持って、作品を販売できる方に限らせていただいています。今はハンドメイド系のイベントもEC販売のプラットフォームも充実している時代ですし、そういったところで実際に販売を経験したことがある方というのは第一条件ですね。あとは、うちのお店に合うかどうか。技術は素晴しくても、お断りすることもあります」作家さんは、全国で活躍する方から、mederuだけで販売する方までさまざま。コミュニケーションを大切にしていて、おしゃべりをしながらアイデアを一緒に考えたり、新しい作品のリクエストをしたりすることもあるのだそう。「『こういうのが欲しい』というお客さまからの声を拾って、実現させてくれそうな作家さんに相談することはよくありますね。たとえば、小学生のお子さんを持つお母さんに、生理用のナプキンを入れて持ち運べるハンカチはないかと聞かれたのですが、当時はなくて。そこで、布を使った作品をつくる作家さんにお願いをして、実際に作ってもらったことがあります」それはきっと、お客さんと作家さん、どちらとも丁寧に関係性を築いているからこそできることだろう。なかには、mederuだけのオリジナル作品をつくってくれた作家さんもいるらしい。「この器の作家さんは、シンプルな作品をつくられる方なんですが、mederuの雰囲気に合わせてこういうカラフルな色使いの作品をつくってくれました。特にスープボウルは人気ですね」冒頭で目を惹かれた学校別の給食袋についても、どんな経緯で生まれたのか聞いてみた。「もともとはワンサイズで販売していたんですが、お客さまからプリントに書かれているサイズと微妙に違うというお声があって。それでサイズ対応するものを作って、学校ごとに分けてみたら、すごく便利だと言っていただけたので続けています。近所の小学校に通う1年生のお母さんが買ってくださることが多いですね。普段はバッグや小物をつくる作家さんにお願いして、新学期前のシーズンにはこうした学校グッズをまとめて作っていただいています」子どもが持ち帰るのを忘れてしまう(あるある)のを踏まえて、最低3セットは買っていくお客さんが多い。だからこそ、いろいろ選べるように柄のバリエーションも豊富にしている。さらに、入園入学のシーズンに合わせて、お昼寝タオルやシーツなどのオーダーメイド注文も受けているそう。好きな柄の布を持ち込むのもOK。作家さんたちが、一つひとつ丁寧に仕上げてくれる。「最近は、外国のお客さまからのオーダーも増えてきています。ネット上だと日本語が読めないからオーダーが難しいみたいで、直接お店に来てくださるんですよね。大手のお店で断られてしまって、うちが最後の砦みたいな感じでいらっしゃるので、これはお受けしなきゃと思って。毎回翻訳ツールを駆使して対応しています」初めての子どもの入園・入学準備となれば、ただでさえ大変なことが多いはず。仕事をしながら時間を確保することも簡単ではないし、そもそも裁縫の得意不得意だってある。さらにそこに言語の壁があるとすれば、親御さんの不安は計り知れない。そんなときに、こうして一人ひとりに寄り添って対応してくれるお店があれば、どれだけ救われるだろう。「できるだけお客さまからのご要望にお応えしたいなと思いますし、こういうサービスをやっていることも、地域の方をはじめ、もっとたくさんの方に知ってもらいたいなと。作家さんたちも、すごく協力的な方ばかりなんですよ。才能があるだけじゃなくて、人間性も素晴らしくて」mederuが目指しているのは、誰でも気軽に入れるお店。洗練された大人っぽい雑貨屋は都内にたくさんあるけれど、このお店では、近所の方々が気分転換にふらっと立ち寄れるくらいの気兼ねない場所でありたい。そんな思いで、中山さんは日々お店づくりをしている。作家ものの雑貨だけでなく、駅ビルにあるようなちょっとしたお礼やプチギフトにもなるセレクト雑貨を置いているのも、そうした気軽さを意識してのことだ。雑貨メーカーが集うギフトショーに足を運んだり、日々買い物がてらリサーチをしたりして、新しい商品を仕入れている。「いつ来てもお客さまに新鮮さを感じてもらえるように、季節感のある雑貨を早めに取り入れるのはもちろん、定番商品でも新しいものを常に探しています。ディスプレイもかなり頻繁に変えていますね」このお店にギフトを探しに来るお客さんは多い。特に母の日や、誕生日、クリスマスなどのタイミングでは、ハートフルな光景を目にする。「母の日に小学生の兄弟がお小遣いを持って、お母さんへのプレゼントを探しに来てくれたことがあって、感動しましたね。うちでいいの?ありがとうね、みたいな(笑)。あそこだったらママの好きなものがあるんじゃない?って2人で相談して来てくれたのかな、と想像したら、胸が熱くなっちゃいますよね」ひょんな縁からmederuを引き継いで、はや5年目。今では顔馴染みのお客さんも増えてきた。「mederuは今、赤ちゃんからマダム世代まで幅広い方々にご来店いただいています。最近は男性のお客さまも増えてきました。『メデルに来ると気分転換になる』『ほっとする』などあたたかいお言葉をいただいているので、皆さんにとってもっともっと居心地の良いお店にしたいなと思っています」どこまでいっても、お客さん思いな雑貨屋さん。たしかにここにいると、肩の力が抜けるような気がするのは、中山さんの飾らない人柄と、彼女が作り出す空気感のおかげなんだろう。ちょっと疲れたときの気分転換や、自分へのご褒美に、ふらっと立ち寄りたくなるお店だった。