お花とハートが飾られたファンシーな外観。中に入ると、蛍光グリーンと紫の壁に、ラブリーなピンクのシャンデリアがお出迎え。そして店長らしき女性は、男性の顔がでかでかと描かれたTシャツを着ていて、ほかのスタッフさんたちと楽しそうに会話をしていた。「あ、取材なのにこんなTシャツ着てきちゃった!」明るく笑うこの女性が、この「RGカフェ」の店長の板橋惠さんだ。描かれている男性は、仲の良い飲食店の店主らしい。この店の第一印象は、とにかく「独特!」に尽きる。アジアンテイストのカフェとは聞いていたけれど、なんだろう。いろいろと想像の少し斜め上をいく感じ。しかし、ここは家庭的なランチがおいしいと評判のお店。板橋本町周辺の、主に働く人たちの胃袋を日々満たしている。2012年創業。板橋かずひろさんと惠さんが夫婦ふたりで始めたお店だ。店内はアジアンテイストなのだけど、メニューはそうでもない。というかエスニックっぽい料理はまったくなく、どちらかというと家庭的なメニューが並ぶ。定番ランチは、「豚のしょうが焼き」と「焼き鮭プレート」のふたつ。それに加えて、選べる「本日のランチ」がメニューに入ってくる。すべてライス・サラダ・スープ付きなのが嬉しい。ちなみに、金曜日は“スパゲッティの日”として、選択肢の中にパスタが登場する。「パスタが好きな人がお店に来て、メニューになかったら悲しむじゃない。だから、お客さんにも定着するように金曜日って決めて、『本日のランチ』の中に入れることにしたの」パスタも気になるが、まずはおすすめの「鶏のレモンペッパー」をつくってもらった。ワンプレートに、レモンが添えられたこんがりつやつやの鶏肉のソテーがどーん。その周りには、サラダと副菜がたっぷり盛り付けられている。さっぱりと爽やかな風味のタレがとてもおいしい。料理のこだわりについて聞くと、惠さんはキッチンの方に向かって「富子さんー!」と呼びかけた。このレモンペッパーをつくってくれたスタッフさんだ。「彼女は料理上手!」と惠さんが太鼓判を押す富子さんは、もともと介護の仕事をしていたのだそう。惠さんとはもともと知り合いだったが、新しい職を探していたときにちょうどRGカフェの前を通りかかり、スタッフとして働くことになった。富子さん曰く、ポイントはサラダの横に添えられた「副菜」。「副菜はその日のスタッフが決めるので、だいたい毎日変わるんです。メイン料理との色合いも見ながら、『今日は何にしようかな?』と考えています」この日の副菜はニラ玉。味がしっかりとしていて、これがとてもおいしい。日替わりかつ、スタッフさんそれぞれの個性が表れる部分なので、また来るのが楽しみになりそうだ。「なるべく万人の口に合う味付けを心掛けています。濃すぎてもダメだし、薄すぎても物足りないし。その塩梅が難しいんですけどね。でも、お客さんがたくさん来てくださると、それだけ作りがいがあります」「おなか、まだ行けるよね?」と惠さん。続いて定番の「焼き鮭プレート」も出してもらった。脂ののった鮭がメインの、みんなが好きな和定食だ。塩加減もちょうどいい。よく見ると、先ほどのレモンペッパーとは、プレートに乗っているものが微妙に違う。「お魚だから、海苔にご飯と鮭を巻き巻きしてかぶって食べたらおいしいでしょ。日によっては、カブとか大根の葉を炒めたものとか、梅干しとか、ゴマ塩とか、『食べる?』ってお客さんのお皿にどんどん乗せていっちゃうので、プレートの内容は結構変わります(笑)」その感じ、なんだかすごい実家っぽい……! 最初はゴージャスな内装と、皆さんが言う「うちは家庭的なお店だよね」という言葉がなかなか結びつかなかったのだけど、ちょっとずつわかってきた気がする。そのあと、惠さんからこの店の始まりについて聞いて、さらに納得した。2012年。東日本大震災の影響がまだまだ色濃く残り、東京のまちなかからも明かりが減っていたあの頃。板橋エリアも例外ではなかった。RGカフェの物件は、もともと夫・かずひろさんが先代から受け継いだマンションのひとつで、当時は新聞社が入っていたという。「『3.11』のあと、新聞社の方々も撤退して、この一角は真っ暗だったの。ほかの借り手も見つかるような状況じゃないし、日々安否確認で物件を回っているなかで、『このまま暗いままなのは嫌だね』って。明かりが付いていて、みんながホッとできるような場所があったらいいのにと思って、じゃあ自分たちでお店をやるしかないね、というのが始まりでした」訪れる人たちが帰ってきたと思える場所をつくりたい。それが、RGカフェの出発点なのだ。カフェという業態を選んだのは、喫茶店でアルバイトの経験がある惠さんにとって馴染みあるものだったから。いつか自分でもやってみたいという思いはあったのだそう。アジアンテイストな内装は、バリ島が好きな板橋家のアイデア。夫婦ふたりと娘さんに加え、紹介された地元の一級建築士、二級建築士の女性たちの力を借りながら、一緒に考えていった。「シャンデリアっていう発想は私にはなかったですね(笑)。天井が高いのを活かして、建築士の方が選んでくれたんです」オープン以来、数名のスタッフさんたちとともに試行錯誤しながらやってきた惠さん。長く働いているメンバーが多く、なかには一度子育てを経て、復帰したという方も。惠さんはスタッフを「富子さん」「ミナちゃん」などと名前で呼び、ラフに話しかける。ミナさんと惠さんは30年の付き合いになるらしく、ぽんぽんとフランクに交わされる会話の調子からもその関係性が滲み出ている。なんだか、みんな含めてひとつの家族みたいだ。そんなRGカフェだが、創業から13年目となる今年、リニューアルオープンした。店内が満席で入れず、帰ってしまうお客さんを減らしたいという思いから、今までバックルームだった場所を客席にした。狙ったわけではないが、ちょうど“13席”増えたらしい。かずひろさんの夢だった、バーカウンターも誕生。より広々と、開放的な空間に生まれ変わった。「ホッとできる場所をつくりたい」という思いを起点に、未経験からスタートしたカフェ運営。13年経った今、当時夫婦が思い描いた画は、達成されているのか。きっと、お客さんの足が途絶えないことがその答えなんだと思う。また、惠さん自身も、お店をやっていることが日々の活力になっていると話す。「やっぱり家にいたら、これだけの人と知り合うことはないじゃないですか。外で会ったら、『こんにちは』ぐらいで会釈して終わりだけど、この場所があることでいろいろ話せたりして。やっぱり楽しいですよね」惠さんには、いくつか野望がある。たとえば、よりアジアンな雰囲気を出すために、お店の表で火を吹かすとか、かずひろさんの実家が営むご近所の園芸店にカフェを併設するとか。そういう話をしているときの惠さんは、とても楽しそうだ。リニューアルの改装中、代わりの店舗として2か月間だけ営業していた場所も、ゆくゆくは2号店として再開予定。RGカフェからほど近い場所にある“ふつうの一軒家”で、まさに人のうちにお邪魔したような、居心地の良い空間なんだとか。「こちら(RGカフェ)が、カフェと言いつつご飯屋さんだと言われてしまっているので(笑)。今後もう一店舗の方を再開するなら、向こうではパンケーキとかガレット、ワッフルなんかを出したいなと思っています。やりたいことは、まだまだたくさんありますよ」