私と祖母はちょうど70、年が離れている。大正生まれで、春にめでたく100歳を迎えた。祖母は、今でいうレイヤードが上手で、柄ものの洋服を組み合わせたコーディネートは、平成生まれで70歳下の私から見てもとても可愛らしく、真似してみたいなと思ったこともある。友人から、祖父母や両親から借りた服を取り入れているという話を聞くことも多い。洋服というのは、同じ一着でもその人の年齢や好みに合わせた着こなし方によって、いろいろな見せ方ができるのだ。そのことに、あらためて気づかせてくれたショップが、旧中山道沿いにある。都営三田線の新板橋駅から徒歩4分、「おにぎりぼんご板橋店」のお向かいにある「CIRCLE」。2011年春にオープンしたCIRCLEは、大人らしいカジュアルな服や靴、アクセサリーが並ぶセレクトショップ。店主の大橋明美さんがすべての商品をセレクトし、ひとりで営んでいる。20代からずっと、ファッションの業界に身を置いてきたという大橋さん。この店を始めるまでに、さまざまな経験を積んできた。「若い頃からファッションが好きでした。でも、私の時代はデザイナーズブランドの勢いがあって、専門学校を卒業していないと販売員の仕事にも就けないくらい人気だったんです。私には到底無理だと諦めて飲食店で働いていたところ、そこでたまたま出会った方がアパレルのメーカーを紹介してくださって。運よくファッション業界に入ることができました」そのメーカーのブランドで5年ほど販売員をしたのち、本社に異動。販売促進課でプレス担当として、ファッション誌との仕事をするようになった。そこで、大橋さんはあるスタイリストさんと出会い、今度はアシスタントとして働き始める。その人は、ファッション誌でスタイリストをしながら、ジュエリーの会社のコンサルティングをやっていたそう。「ファッション誌のときはそのスタイリストさんのアシスタントをして、コンサル業のときはマネージャー兼秘書のような形で働いていました。撮影や、撮影に使用する商品のピックアップに始まり、総務や経理など、その方の仕事のサポートを一通りやっていましたね」なかなかハードな仕事とあって、お子さんが小学2年生のときにアシスタント業を卒業。マネージャー業だけ続けていたが、その後は知人の紹介でセレクトショップで働くことになった。そこから数年して、このCIRCLEをつくることになるわけだが、大橋さん自身は自分のお店を持ちたいと考えたことはなかったという。「自分が着たい服を売っているお店がないなとは思っていたんです。でも、自分で店をやるなんてまさか、という感じで(笑)。経営の知識もないし、どのくらいお金がかかるかもわからないから、まったくそんな気はなかったんですが、働いていたセレクトショップのオーナーさんが背中を押してくださったんです」お金をかけなくていいから、小さくても自分の店をやってみた方がいい。そんなオーナーの言葉を受け、大橋さんは独立を決意。せっかくやるなら地元で、と物件を探し、ひとりでやるにはちょうどいいサイズ感のこの場所で、大人カジュアルなセレクトショップをオープンした。“CIRCLE”という名前は、人との縁や和をイメージして。「そんなに深い意味はないんです」と大橋さんは言うけれど、出会ってきた人の縁に導かれるようにここまでやってきた大橋さんの人生を象徴する、ぴったりな名前だなと思う。お店に並ぶのは、大橋さんが自分でも身につけたいと思える服や雑貨たち。トレンドは意識しつつも、それに捉われすぎない、シンプルだけどちょっと個性のあるものが揃う。「ミセス向けと若い人たち向けで結構分かれてしまっていて、中間世代が着る服ってあまりない気がしていて。だから、20代も40代以降も同じ服を着ているけれど、やっぱりしっくりこなかったり、人と被ってしまったりするんですよね。だから、ファストファッションよりももう少し素材が良くてシンプルすぎない、大人が見てもかっこいいと思うエイジレスな服を揃えるようにしています」以前働いていたセレクトショップのオーナーさんが紹介してくれたというアパレルメーカーをはじめ、雑誌やSNSを見て気になったお店に直接アプローチをして仕入れることもあるという。CIRCLEにやってくる方たちは、40代から80代までと幅広い。「若い頃からおしゃれを楽しんできた方が多いですね」と大橋さん。この先5年、10年と年を重ねても、ずっと身に付け続けたいと思えるものを置きたい。だから、靴やカバンにも秘密がある。「これ、ちょっと持ってみてください」と大橋さんに言われたブーツを持ち上げて驚いた。めちゃくちゃ軽い……!「厚底のブーツとは思えないくらい軽いでしょ? 自分も含め、年を重ねていくと重いものは身につけられなくなっていきますし、できるだけ軽い方がいいじゃないですか。だから、靴もバッグも、軽いのがセレクトの最低条件なんです」革靴もみんな軽い。軽いのに見た目はおしゃれで、晴雨兼用もあったりと機能面もばっちりだから、すごい。こうした商品を日々必死にリサーチして探し出しているのだという。お店に足を運んでくれたお客さんには、ライフスタイルや要望に合わせて提案をしていくという大橋さん。「提案するにはその方のライフスタイルを知る必要があるので、初めてのお客さまにはお仕事をされているのかとか、働くときは制服なのか私服なのかなどをお聞きしながら、『それならこういうのもいいですよね』とご提案します。買ったけれど着なかった、となってしまうのは残念なので、できるだけたくさん着ていただけるように、本当にお似合いになるものをおすすめすることを心掛けていますね」さらに大橋さんは、こう続ける。「似合うことはもちろん前提ですが、トレンドのものを身につけたいという人もいれば、とにかく着やせしたいとか、周りとは違うものを着たいという人もいる。それは本当に人によってさまざまなので、その思いも叶えてあげたいと思うんです」洋服を買うとき、たとえばパンツが欲しいとか、ニットが欲しいとか一応考えてお店に行くけれど、じつはその奥にはいろいろな欲望があったりする。そのことに、自分ですら気づいていないこともある。それを丁寧に引き出すのも、大橋さんの仕事なのだ。気になるものがあれば積極的に試着をしてもらいつつ、合わせ方のアドバイスも。そうした細やかな接客が、おしゃれを楽しみたい幅広い世代のお客さんの心を掴んでいる。「たとえば、同じ黒のタイトスカートがあったとして、若い子だったらスニーカーを合わせるところを、大人の方はハーフブーツを合わせれば落ち着いた印象になる。コーディネートの正解はひとつじゃないですし、合わせ方を工夫すれば、どの服も幅広い年代の方に着ていただけるんですよね」気になる服があったとき、年齢や体形などを理由に自分には無理かな、なんて諦めてしまわずに、とりあえず試してみれば新しい扉が開くのかもしれない。こちらが一歩踏み出せば、大橋さんは親身になって相談に乗ってくれる。「CIRCLEで買った服を着ていたら家族や友人に褒められた」という声をはじめ、道端ですれ違った人に急に呼び止められて「それどこで買ったの?」と聞かれた、なんてお客さんもいるのだとか。「そういう経験をすると、またおでかけの予定ができたタイミングに服を見にきてくださったりして。そうすると、私も気合いが入るわけですよね。『どこにお食事に行かれるんですか?』って聞きつつ、その方の持っているアイテムを思い出して、『これを合わせれば間違いないから!』って(笑)」何度も通ってくれているお客さんに関しては、持っている/持っていないアイテムや好み、どうなりたいかも把握しているから、より多角的な提案ができるというのも、なんだか面白い。そうか、大橋さんは「おしゃれをしたい」と願うこのまちの女性たちの、専属スタイリストなのだ。オンラインにはない、服を買う楽しさや喜びがこのお店にはある。「洋服を買うと気持ちが上がるじゃないですか。それに、気に入った服を着ていると、自信を持って堂々と歩けるし、顔も上がるんですって。おしゃれすることで心や日々がちょっと豊かになるし、そのお手伝いができるのがこの仕事のやりがい。気軽に立ち寄ってもらえたら嬉しいです」