ビールはビールでも、ちょっととくべつな感じがする“クラフトビール”。醸造所の個性がぎゅっと詰まったその味わいは、一般的なビールとまた違ったワクワク感がある。今では、気軽に飲める専門店の数も増えて、私たちの生活にだいぶ身近なものになった。スーパーのお酒コーナーにも、大手メーカーの商品に並んで、ビビッドでおしゃれなパッケージのクラフトビールが種類豊富に並んでいたりもする。板橋にも、魅力的なクラフトビールの醸造所=ブルワリーがあることをご存知だろうか。下板橋駅の北口から徒歩3分のところにある「TOKYO ALEWORKS TAPROOM 板橋本店」。静かな住宅街のなか、その一角だけアメリカンでおしゃれな雰囲気が漂う。ガラス張りの建物に、ペットOKのテラス席もあり、開放的なつくりだ。運営元であるスコッチモルト販売株式会社が、この場所でブルワリーを始めたのは2018年のこと。その翌年、2019年3月にタップルームを併設し、「TOKYO ALEWORKS TAPROOM 板橋本店」としてオープン。醸造室でつくられたビールを、フードと一緒に店内で楽しめるようになった。店長の五月女裕貴さんに、とくべつにタップルームの隣にある醸造室を見学させてもらった。中には大きなタンクがずらり。発酵タンクからは、こぽこぽと可愛らしい音が聞こえてくる。ブルワーと呼ばれる職人たちが、ここで日々さまざまな種類のビールをつくる。「つくっているビールそれぞれに個性がありますが、全体的にかなりクリアな味わいが特徴です。見た目だけ透明度を追求すると味わいが軽くなったり、味の濃さを重視すると見た目が濁ってしまったりするのですが、うちでは透明度を保ちながらもしっかりとフレーバーを感じられるように、かなり細かく品質管理をしていて。その部分は強みだと思っています」タップルームには13タップあり、常時13種類のTOKYO ALEWORKSオリジナルビールが楽しめる。なくなり次第別のビールに入れ替わるので、ラインアップはその日のお楽しみ。クラフトビール好きの気さくなスタッフさんばかりなので、初心者もご安心を。「どう選んだらいいかわからない……」と迷ってしまっても、好みを丁寧にヒアリングしながら、おすすめしてくれる。店内では、気に入ったビールを缶で買うこともできる。なかには、その日のタップにはないビールや、オリジナル以外の銘柄も並ぶことがあるので、気になるものを買ってその場で飲むもよし、手土産にするもよし。“パッケージ買い”も、缶ならではの楽しみだ。ちなみに五月女さん曰く、「好みによると思いますが、閉じ込められているぶん、グラスより缶の方が香りは強いですね」とのこと。同じビールを、それぞれ飲み比べてみるのも楽しいかもしれない。(缶を店内で飲む場合は、開栓料あり)それぞれの地域性を活かしたビールづくりも、クラフトビールの面白さのひとつだと言われているけれど、TOKYO ALEWORKSは拠点をなぜ板橋にしたのだろう。お店の立ち上げにも関わっていた五月女さんが、ブランドのストーリーについて教えてくれた。「もともとクラフトビールは、歴史に裏打ちされた伝統的なビール造りを継承しつつも、より良いものをつくろうという自由で多様な発想から生まれたビール。そして、板橋はかつて江戸の四宿のひとつでもあった東京の玄関口とも言えるまち。ここを起点に、クラフトビールで世界と東京をつなぐ架け橋になり、日本のクラフトシーンに変革を起こす挑戦を、という思いから、TOKYO ALEWORKSがスタートしました」ちなみに、明治6年頃に東京で初めてクラフトビールがつくられた場所は、板橋だと言われているらしい。当時ビールは「ヒイル酒」と呼ばれ、このまちで生産されていた記録が残っているのだそう。▲「板橋のいっぴん2025」にも選ばれた「板橋ヒイルラガー」は、さっぱりとした味わいでクラフトビール初心者も飲みやすいそして、TOKYO ALEWORKSが掲げる「Be The Craft Revolution. — クラフト革命であれ。」というブランドコンセプトには、“古き良きものを継承し、新しき良きものを創造する”という意味が込められている。そんなTOKYO ALEWORKSのクラフトビールは、古き良きビールの味わいを大切にしたオーセンティック(正統派)なものをベースに、新しさを感じられるスタイルに挑戦しつづけている。たとえば、秋はパンプキンパイのスパイスに乳糖を少し加えた、限定のデザートビールが人気。企業やほかのブルワリー、アーティストなどとのコラボレーションも積極的に行い、個性的なクラフトビールがたくさんが生まれている。もちろん、新しさは大事にしつつも、おいしいのが大前提だ。五月女さんは、こうしたTOKYO ALEWORKSのビールづくりの姿勢に惹かれて入社したひとり。もともとクラフトビールが好きで、神田のビアバーで社員として働いていた際、TOKYO ALEWORKSの立ち上げを控えて勉強にやってきた、当時の総合責任者(通称・ボス)と知り合った。その後、転職をして一度はビールの世界から離れた五月女さんだったが、退職を決めたタイミングでボスと偶然再会。それが、TOKYO ALEWORKSにジョインするきっかけになった。「たまたまこの辺りを歩いていたら、ボスとすれ違って『あれ?』って(笑)。ちょうどこの店の立ち上げ準備のタイミングだったらしく、僕がまだ次の進路を決めていないと伝えたら、『うちで一回やってみないか』とお話をいただいて。以前構想を聞いたときから興味はあったので、ありがたくお受けすることにしたんです」そうして、TOKYO ALEWORKS TAPROOMの立ち上げに参加し、そのまま店長になった五月女さん。バランスを考えた自社ビールの選定や、味のクオリティコントロールなど、仕事はさまざま。もちろん、接客もする。せっかくなので、五月女さんにこの日のラインアップの中からおすすめのビールをいれてもらった。小さめのテイスティング・グラス(100〜140ml)の飲み比べセット「Beer Flight」が人気。気になるビールを4種類選べるので、悩んだらこのセットがおすすめだそう。取材中にも、外国人のお客さんたちがこのセットを頼んでいるのを見かけた。ちょっとずつ楽しめるのは、たしかに嬉しい。左から「板橋ヒイルラガー」、「夕焼けアンバーラガー」、「ノー・リモース Blended BA Imperial Stout」、「浅草モザイクIPA」。見た目からしてこれだけ違うのだから、クラフトビールって面白いなあとあらためて思う。もちろん、味も全然違う。「今日のラインアップで言えば、個人的には『夕焼けアンバーラガー』と『浅草モザイクIPA』がとくに好きですね。前者は、ちょっとナッツっぽい香ばしさや甘いトーストっぽい感じが強い琥珀色のビール。後者は、モザイクという種類のホップのみをふんだんに使ったビールで、柑橘っぽさがあるジューシーな味わいのビールです」説明を聞きながら、「たしかに……」とか「本当だ!」とか言いながら飲むのも楽しい。個人的には、黒ビールの「ノー・リモース Blended BA Imperial Stout」のおいしさに衝撃を受けた。シェリー樽で熟成させているそうで、シェリーの香りや味わいがするかなり大人なビールだ。(しかも度数11%とハイアルコール!)そして、五月女さんはビールに合うフードメニュー開発にも携わる。オープン当初からある「チーズバーガー」は、専門店顔負けのクオリティ。もちもちのバンズにごろっと粗めの肉々しいパテ、そこに濃厚なチーズがとろけて、食べ応えバツグン。これひとつでも、大満足のおいしさだ。(もちろん、ここにビールを合わせればさらにハッピーになれる)ハンバーガー以外にも、「バッファローチキンウィングス」や「ホットドッグ」、「ソーセージ5本盛り」など、魅力的なフードメニューがたくさん。選んだビールに合うフードも教えてもらえるので、迷ったらぜひスタッフさんに相談を。「もちろん、ビールを飲まずにお食事だけのご利用も歓迎です。小さいお子さんを連れたご家族や、妊婦さんもよくいらっしゃいますよ」じつは五月女さん、数年店長を務めたのちに一度この店を辞めているのだが、つい最近戻ってきたのだという。ふたたび正式に店長をやることに決まったのは、なんと取材の3日前(!)のことだった。「マーケティングやイベント企画などいろいろ経験しましたが、やっぱり接客が好きなんですよね。対面でお客さまにお酒を提供するのが一番楽しくて。紆余曲折ありましたけれど、ここにまた戻ってきました」味に誠実であること。その姿勢がTOKYO ALEWORKSの基本であり、魅力にもつながっていると、五月女さんは言う。年月が経ち、規模が大きくなっても、創業当時から変わらないパッション、妥協しないビールづくりを貫きつづけるのは、きっと簡単ではない。だからこそ、五月女さんのように関わる人にとっても心惹かれるのかもしれない。以前はコアなクラフトビール好きがメインだったが、今は地元のお客さんも増え、なかには「勇気を出してきました」という方や、三世代で来てくれるファミリーもいて嬉しい、と話す五月女さん。地域に根差したブルワリーだからこそ、「“休憩所”のように使ってほしい」という。「がっつりクラフトビールを飲んだり、ハンバーガーを食べたりしていただくのはもちろんですが、さっとソフトドリンクだけ飲んでいくというのも大歓迎です。ついでにビールを試してみたいと思っていただけたら、好みに寄り添ってスタッフが丁寧におすすめします。どんな方にも、気軽に使っていただける店でありたいなと思っています」クラフトビールのお店というと、おしゃれなイメージが強いし、ビールに詳しくないとちょっと尻込みしてしまったりするけれど、TOKYO ALEWORKS TAPROOMはフラットで、居心地がいい。おいしいビールはもちろんだが、スタッフさんたちの気さくで柔らかい雰囲気が、この店の魅力だと思う。そうしたオープン当初から変わらない良さは守りつつ、店長として再出発した五月女さんの色が加わって、また新しいTOKYO ALEWORKS TAPROOMのスタイルを更新していく。ここに来れば、きっとわくわくした気持ちになれるはず。