まちの文房具店が消えている。そう聞いても、「まあ、そうだよね」と驚かないのは、普段自分自身がペンやノートを買うときにもネットや大手の生活雑貨店でサクッと済ませてしまうことが多いから。正直、手軽でラクなのは否めない。そこと戦っていかなければならないのだから、それは大変だろうな……と思うし、実際近所に1箇所でもあればラッキー、くらいに昔ながらの専門店はなかなか見かけなくなってしまった。でも同時に、文房具屋さんが大好きだった子どもの頃のことを思い出す。とくに用もないのに、何かと理由をつけては、近所のお店に連れていってもらった。新しくて機能的、もしくは可愛い文房具を持っていることがひとつのステータスにもなりうる小学生にとって、まちの文房具屋さんは宝箱みたいな場所。1時間、2時間……どんなにいても、飽きることがなかった。成長とともにあった、思い出深いお店はなくなってほしくない。今残っている文房具屋さんも、きっと誰かにとってのそういうお店のはずで、そうなるとやっぱりできるだけまちのお店に足を運びたいなと思う。今回は、そんな文房具屋さんのひとつ、昭和29年から頑張る老舗の「竹屋文房具店」をご紹介したい。大山駅から徒歩3分。ハッピーロード大山商店街の中ほど、もんじゃ焼き屋さんの2階にある。青いえんぴつのマークを目印に階段を上っていく。上まで辿り着くと、そのままお店につながる。飾らない、ザ・まちの文房具屋さんという雰囲気。限られた広さの店内に、ものすごい数の商品がどわ〜っと並ぶ。この感じがなんだか懐かしい。もともと大山に家を構えながら、竹を販売する竹屋と雑貨屋を営んでいた岡田さん一家の長男が独立し、この文房具店を始めた。“竹屋”という屋号は、両親の家業だった竹屋さんから引き継いだものなのだ。2代目店主である岡田利子(おかだ・としこ)さんは、その一人娘。短大を卒業後、そのままお店で働き始めた。「結局一人娘だったから、継がざるをえなかったんですよ」と利子さん。「父はよく働く人でしたね。昔は画板とか、学校で必要なものを生徒さんたちが買いにきたんだけど、数が多いから品物が足りなくなっちゃって。間に合わないからと、小さなオートバイを走らせて直接問屋さんまで取りに行ったりとか」昔は、学校の授業で使う墨汁や硯、画板をはじめ、ふすま紙や障子紙なんかも当たり前に扱っていた。必要になると、みんな文房具屋さんに自ら買いに行った。だから、入学準備の時期や年末はとくに大忙しだったらしい。竹屋文房具店には今もその名残があって、ほかの文房具店ではもうあまり見かけないような、マニアックな商品もたくさん並んでいるから面白い。たとえば、さまざまな種類の契約書とか、製図用品とか。一方で、利子さんは新商品やトレンドにもアンテナを張って、積極的に仕入れるようにしている。なかでも、ペンの種類の豊富さにはこだわりがある。すごい数だ。これはほんの一部で、大手文房具店にも負けない品揃えである。ここ10年でボールペンもシャープペンも、種類がどんどん増えているらしい。お客さんのために、広く浅くでもできるだけ種類を揃えておこうと思うと、これだけの数になってしまうのだそうだ。「あちこちほかのお店に行ったけどなくて、『もしかしたら』とうちに寄ってくださる方も多いんです。そのときに、『あった!』と言われるのが、嬉しいんですよね」たとえば、2025年に発売された「ユニボール ゼント」。キャップがマグネット式になっていて、本体から引き抜くときのカチッ!がクセになる、新感覚のボールペン。ビジュアルがスマートなだけでなく、書き心地もスイスイ。ビジネスシーンでも活躍しそうな大人のボールペンだ。「みなさん、よく知っているんですよ。ネットで見て、『これ入ってますか?』とか。ちょうど昨日も、『クルトガ』の新しいのが売れちゃって」「クルトガ……!」と思わずテンションが上がってしまったのは、私が中学生に上がる直前に発売されて、同級生の間で爆発的な人気を誇ったから。じつは、「クルトガ」は今もどんどん進化をしているらしい。即完売になるという「クルトガダイブ」は、なんと1本5500円。「書く」体験に没入させるための独自の機構になっていて、人気すぎてなかなか手に入らないそう。そんな商品も、竹屋文具店にはしれっと置いてある。見つけたらラッキー。「お客さんの中には、シャープペンが大好きでたくさん集めている男の子がいて、新しいのが出るたびに来てくれるんです。詳しい子から流行っているものを教えてもらって、仕入れることもありますよ」そんな感じで、竹屋文房具店には近所の子どもたちがよく訪れる。階段を上って、学習帳1冊や消しゴム1個を買いにくる。そういうとき、利子さんは「気を付けてね」と声をかけるのだという。「理想としては、もうちょっと片付けてきれいにできたらいいんですけどね。でもお子さんたちは、あちこち見て触るのが楽しいみたいで。いつも指サックを全部の指にはめる子とかね」「可愛いですよね」と、利子さんはふわっと優しく笑った。ああ、やっぱりどの時代も変わらないのだなあと思う。子どもにとって文房具屋さんは、おもちゃ屋さんともまた違った天国。しかもこれだけ商品がたくさんあったら、宝探しみたいで、きっと楽しくて仕方ないだろうなあ、と。利子さん夫妻と一緒に働くスタッフの佐藤さんは、ここでアルバイトを始めて丸30年。ものすごい数の商品と格闘しながら接客するうちに、文房具の面白さを知ったという。「油性しかなかったボールペンに、水性のものが出てきて、そのうち“速乾”も生まれて。昔はなかったものが出るたびに、ああ、世の中にはこういうニーズもあるんだなって気づかされたりとか。あと、海外の人が『オルファ』のカッターを集めていると聞くと、驚くと同時に『日本の文具ってやっぱりすごいんだな』と誇りにも思いますよね」話をしながら、佐藤さんは別の場所に紛れてしまったペンを、てきぱきと手際よく戻す。ほかのお店の文具コーナーに行ったときにも、ついクセで乱れたボールペンを直したり、整理したりしてしまうのだとか。さすが、スタッフ歴30年のベテラン。「でも、お客さんに聞かれて『あれ、どこだっけ?』ってなることも、いまだにありますけどね(笑)」そんなゆるさもまた、お店の魅力。優しくて親切な、昔ながらのまちの文房具屋さん。ここは、子どもから大人まで安心してワクワクできる、秘密基地みたいな場所だ。取材が終わったあとも、カメラマンとふたりでついつい長居してしまった。「懐かしい~」と「こんなのあるんだ!」を繰り返しながら、個人的な買い物をした。世代が違っても、文房具はみんなの共通言語。その違いを話すのも楽しい。そして何より、新しい文房具を手に入れたら、明日がちょっとだけ楽しみになった。ほしいものが決まっていても、そうでなくても、竹屋文具店に行けば、新しい発見がきっとある。