お風呂の電球が切れたとき、冷蔵庫が壊れたとき、ドラム式洗濯機が欲しくなったとき。とにかく電化製品で困ったことがあれば大型店に行くか、ネットで買い替えるのが当たり前になっている私にとって、たまに見かけるまちの小さな電気屋さんというのはなんというか、不思議な存在だった。大型店のように店頭にものすごい数の商品がずらりと並んでいるわけでもないし、なんとなく一般人が利用していいのか不安になったりもする。率直に言えば、どんなふうに商売をしているのか、よくわからない。今回伺った「山中電気」も例にもれず、ハッピーロード大山にある小さな電気店。たぶん、普段だったら入っていいのか迷う雰囲気。いったいどんな取材になるのか、少々の不安と好奇心が入り混じった状態で始まった……のだけど、その実態は人情と誠実さを感じる、シブくてかっこいいお店だった。「こんにちは、寒かったでしょ」そう出迎えてくれたのは、山中電気の3代目である山中浩司さん。「散らかっているけれど」と言いながら、お店の奥に案内してくれた。小さな店内には、照明や電球、電池などの商品が並ぶ。そのどれもがパナソニック製だ。昭和の戦後すぐに、浩司さんのおじいさんが電気工事店としてこの店を構えたのがはじまり。昭和56年頃、父・正一さんに代替わりしたタイミングで会社にし、そこから松下電器産業(パナソニック)グループの販売店になった。「当時、松下電器では次代の後継者育成も兼ねて、松下系列の地域電気店のネットワークを発足したんです。それで親父は販売網を築いて、電気工事の仕事と並行しながら販売も始めたんですよね。昔は、家電は置いときゃ売れる時代でしたから」そういえば、祖父が住んでいた田舎にも、「松下電器」と書かれた古いまちの電気屋さんがあったことを思い出す。そして「あれが、今のパナソニックだよ」と教えてもらったことも。「パナソニックの店」と称して、山中電気のようにパナソニック製品を専門的に扱う地域密着型店舗が今も全国各地にある。「パナソニックの店」は、お客さんの頼れるパートナーとして、さまざまな暮らしの困りごとに対応する。商品を販売するだけでなく、取り付けなどの電気工事や修理・点検なども、大事な仕事のひとつなのだ。浩司さんは学校を卒業したのち、そのまま山中電気で働き始めた。「僕はちょうど氷河期世代なんですよ。うちは家業をやっていたから、安易な道を選んじゃったのかもしれない。まあでも、もともと上が住居でお店が遊び場だったし、こういう商いが身近にある生活だったから、なくしたくないなあと思って」それから、パナソニックの研修施設でみっちり勉強し、1か月で電気工事士の資格をとったのちに、派遣された三重県の電気店で修行をした。その頃には、すでに「家電は置いときゃ売れる時代」ではなくなっていた。山中さん曰く、電気店にとって景気が良かったのは1980年頃まで。大型の家電量販店が台頭して安く売ることが主流になり、地域の電気店は店を続けていくために変化を強いられたのだ。修行を経て山中さんが感じたのは、地域密着型電気店ならではの信頼の強さだった。高齢の方は自分でお店まで買いにいくのが難しい場合もあるし、一人では寸法を測るのも一苦労だったりする。知らない人を家に上げることに抵抗がある方も多い。「そうすると、昔からお付き合いのある〇〇さん、という信頼や安心感が一番の強みになるんです。商品自体の価格では、大型量販店さんやネットには適わないけれど、僕らは買ったあとのアフターケアとか、お客さんのお困りごとにも丁寧に対応する。そしてそのぶん、適正な金額をいただく。そのスタイルは、地方だけでなく都内でも通じると思ったんです」このご時世、何かと物騒だ。お年寄りでなくとも、知らない人を家に上げるのは結構怖い。ニュースを見ていると業者を名乗る詐欺師もいるし、実際に業者だったとしてもものすごく高額な請求をされた、みたいな話も聞いたりする。そう考えると、“信頼”というのは一朝一夕では積み上げられないものだからこそ、何よりも強いアドバンテージなのかもしれない。だから浩司さんは、とにかく足を使う。「リモコンの使い方がわからない」と電話がくれば、家まで行って丁寧に教える。「冷蔵庫が壊れたから新しいのが欲しい」と相談されたら、とりあえず寸法を測りに行って、話を聞きながらその人に合う商品を提案する。搬入ルートの確認なども、事前にしてくれる細やかさはさすがだ。「相談をもらったら、なるべく時間を置かないように心がけています。一回で解決しなくても、とりあえず早く顔を出して、今後の予定を組み立てたりとか。昔の考え方かもしれないけれど、しょっちゅう顔を合わせてコミュニケーションをとるのが、信頼関係を築く上でやっぱり大事なんじゃないかなと思って」昔は、工務店と組んで外で大がかりな電気工事の仕事をすることも多かったそうだが、「地域のお客さんを大事にしよう」とシフトし、今はもっぱら地域の仕事がメイン。その頃につながったさまざまな分野の職人さんとは今も付き合いがあり、信頼できる仲間として専門性の高い仕事を外注することもあるのだとか。「電気屋をやり始めた頃は、お客さんから怒られたり、やらかしたりしながら鍛えてもらってきました。そうするなかで、良好な関係を築けるお客さんがどんどん増えてきて。地域密着でやっているぶん、悪いことはできないですから(笑)。嘘のない商売を大切にしています」「山中さんに頼んでよかった」。その言葉が一番嬉しいと、浩司さんは言う。大変なことも多いが、今も全国で頑張る地域店や周りの商店街のお店から学び、模索しながら仕事に向き合い続けている。▲お散歩タイムで父・正一さんに連れられてやってきた、ボストンテリアのトラくん(トラ柄だから)。熱烈な歓迎を受けた。▲山中電気にはトラくんの前にも、代々地域の人から愛されてきた看板犬が。今は、兄・伸一さんとともにお店を運営する浩司さん。工事などでふたりとも現場に出ているときにお客さんが来たら、「ちょっとお待ちを~!」と言って2階にいるご両親が対応するそうだ。取材中も、たびたびお客さんがいらっしゃった。ご近所でお店をやっていて、切れてしまった電球を買いに来た方、新しい洗濯機の相談に来た方、などなど。それぞれに対し、浩司さんは丁寧に対応する。まちの電気屋さんというのは、想像していた以上に地域の人たちの暮らしを支える、頼もしい存在なのだ。そして、信頼や人とのつながりを大事にしながらしなやかに、たくましく商売を続けている。どんな仕事であっても、人を相手にする以上、誠実な姿勢がものをいうのだとあらためて感じる取材だった。小さな電球ひとつから大型家電まで。安心と信頼を大事にしたい方はぜひ、山中電気を頼ってほしい。