板橋というと、都内の中でも“下町”や“ローカル”といったワードが似合う、気取らないまちという印象を抱いている人もきっと多いはず。実際、これまで『いたPayさんぽ』の取材で出会ってきた、板橋で生まれ育った人もそうでない人も、だいたい近しいことを言う。そんな板橋の端っこ・成増に、いい意味で板橋らしくない、センスのいい古着屋があるのをご存知だろうか。地下鉄成増駅から徒歩5分ほど。大通りから外れた住宅街の中にある、古着と草花と雑貨のセレクトショップ「Tem(テム)」である。以前、取材させてもらった九州酒場「さんてん」の船戸さんもお客さんらしい。2021年創業。大手アパレルメーカー出身の3人で立ち上げたこのお店には、90年代の古着をはじめ、植物、アメリカやヨーロッパのヴィンテージものの花瓶、アメリカンな雑貨などが並ぶ。「古着は、レアなヴィンテージものというよりは、ラルフローレンをはじめ、名が通っているブランドをメインに扱っています。お客さんの層や反応に合わせて、少しずつ今の形に落ち着いてきたという感じですね」そう話すのは、共同経営者のひとりで、お店の運営をメインで担当する畑山真子さん。カジュアルな古着が中心なので、サイズさえ合えばレディース、メンズ問わず着られる。一部、オリジナルでつくっているTシャツやショートパンツも。お客さんの層は30代前後が中心で、成増という土地柄、ファミリーも多いという。アパレルや雑貨だけでなく、植物を扱うことにしたのは畑山さんの実体験から。「ぎっしり古着で埋め尽くされていると、どうしても選びづらいなという感覚があって。もうちょっと余白をつくりたかったのと、空間に花や植物があるといいなと思って、独学でちょっとずつ勉強しながら仕入れて置いています」まちのお花屋さんではなかなか見かけない、ちょっと変わった草花の仕入れは、高島平の花市場から。この日は、オランダのフラワーベースブランドのポップアップイベントを開催中で少なめだったが、普段はもっとお花が多く、お花屋さんとして買い物にくるお客さんもいるらしい。「小さいお子さんが来て、お花を選んで帰ることもありますよ」。テムには、畑山さん以外に日立さん、芹澤さんという共同経営者がいる。ふたりとも、畑山さんよりも年上の男性たちで、普段は別の仕事をしながら土日には店舗に立つ。時期や期間はそれぞれだが、全員同じ大手アパレル企業に勤めていた。畑山さんは専門学校を卒業後、20歳の頃に入社。店舗のスタッフから始まり、店長やバイヤー、ブランドマネージャーなどさまざまな役職を経験した。「地元は広島の田舎でしたが、高校生くらいからファッション自体は好きで。お金をかけずにおしゃれできる古着は、当時からよく着ていましたね。就職後、広島のショップで店長をしていたときに異動辞令が出て、27歳のときに上京しました」芹澤さんは、畑山さんの先輩で勤務歴20年越えのベテラン。あるタイミングから一緒に仕事をする機会が増え、芹澤さんと仲の良かった旭立(ひたち)さんも交えて3人でよく飲みに行っていたのだとか。「当時、コロナ禍で『これから何する?』みたいな会話を3人でしたんですよね。私自身、セレクトショップのいち会社員として何歳まで続けられるかを考えていた時期でしたし、転職して別のアパレルに行くよりは、独立した方が楽しそうだなって。『やってみるか』というノリのような部分もあったと思います」会社の先輩後輩というよりも、飲み仲間から派生したという感覚が強いという畑山さん。アパレル出身で自らブランドを立ち上げる人も多いが、3人とももともと古着好きで、自分たちの好きなものを詰め込んだ空間をつくりたいという思いがあったことから、古着メインのセレクトショップとしてスタートした。ちなみに、店名にはかっこいい由来がある。Teamから“ a(エース)” を除いて“Tem”。「このチームにエースはいない」「3人で知恵を寄せ合って、その時の“気分”をモノや花で創造する」という思いを込めているのだとか。(なんともおしゃれ……)「でも、それは後付けなんですよ」と、畑山さんは笑う。「最初は、3人の体重を大まかに足して、『合同会社203キログラム』という社名を付けたんです。でも、店名にするにはちょっとダサいし、覚えづらいねと(笑)。そんななか、LAに買い付けに行ったときにハイウェイを走っていたら、急に『Tem』と書かれた看板が出てきて。これだったら覚えてもらえそうだね、ということで決まりました」そのざっくりとした感じも、なんだかラフでかっこいい。板橋には古着屋さんがあまり多くないけれど、成増というまちを選んだのはなぜだったのだろう。「もともと旭立さんが、成増に住んでいたんです。とにかく明るいハッピーおじさんで、この辺りにも知り合いが多くて。コロナ禍だったので、家賃の高い都心に出すよりは、ちょっと離れたところでお客さん一人ひとりにゆっくり対応できる方がいいよね、という話になり、成増に決まりました」前は個人のトレーニングジムとして使われていたという物件は、2区画繋げているので古着屋さんとしては広々とした空間。一点一点、ゆっくりと見られるのが嬉しい。「初めての方でも、気軽に立ち寄れるような雰囲気をつくりたい」という畑山さん。「最終的に気に入る服がなくても、楽しんで帰ってもらえたらいいなって。だから、様子をうかがいつつ、お話が好きそうな方とは結構おしゃべりしますね」古着好きだけでなく、いろいろな人に知ってもらう機会になればと、ライフスタイルに溶け込むようなイベントも定期的に開催している。店先のウッドデッキでビーチサンダルのカスタムイベントをやったり、食器のポップアップストアを開いたり。アパレル時代の繋がりや、お店をはじめてから生まれた縁が派生して、都心のイベントに呼ばれて出展する機会も多い。なかには、イベントをきっかけに存在を知り、成増のショップに足を運んでくれる人もいる。そうした、人との縁を感じられる瞬間があると、お店をやっていて良かったと思えると、畑中さんは言う。「普段、都心のまちに住んでいる人たちが、テムや周りのおいしいお店に行くと、『成増っていいまちだね』と言ってくれたりして。都心では味わえないこのローカルさを好きになってくれるのは嬉しいですよね」ちなみに、畑山さん自身も住まいは都心部。テムを始めたことで縁ができたこの成増は、畑山さんにとってどんなまちなんだろう。「独特な人が多いですけどね(笑)。でも、みんな親切であたたかいです。それこそ、子どもが入院になってしまってしばらく成増に来られなかったときは、常連さんが代わりにお店を開けてくれたりして。オープンから5年経って、お店をお任せできるくらいの信頼関係ができたことが、本当にありがたいなと思います」空間づくりやセレクトなど、随所に畑山さんたちのセンスやこだわりが光るテム。板橋にはあまりなかったクールなお店だけど、このまちらしいあたたかさはしっかりと根付いている。新しい洋服が欲しいとき、普段ならわざわざ都心に出ている人も、ぜひ一度テムに足を運んでみてほしい。意外と身近なところで、とっておきの一着が見つかるかも?