フルーツ専門店で、フルーツを買う。それを日常的にやっている人は、今どれくらいいるのだろう。かくいう私も、大人になってから専門店で果物を買ったことは、正直なところほとんどない。買うとしてもスーパーか、八百屋さん。そもそもフルーツ専門店を見かけることもなかなかないし、誰かへの贈り物でもないかぎり、果物を買う機会自体もめっきり減ってしまった。ほかの食材と比べると、いつも「またにしよう」と後回しにしてしまう。でも、そんな生活が当たり前になっているのは、ちょっと少し寂しくもある。もし、似たような気持ちを抱いている人がいるなら、ぜひ行ってみてほしいフルーツ専門店がある。「いつもハズレがなくておいしい!」と評判の、親子2代で頑張る「西村果実店」だ。▲ 香西久子(こうざい・ひさこ)さんと、その息子で3代目店主の進さん。にこにことしたやさしい笑顔がそっくり。進さんの祖父母が始めたという、この西村果実店。板橋・大山で創業したのち、今の仲宿商店街に移転してきて76年になる。西村という名前、そしてフルーツ専門店。これを聞いて、もしかしたらピンとくる人もいるかもしれない。渋谷スクランブル交差点のすぐ目の前にある、老舗高級果物店「渋谷西村フルーツ&パーラー」。その初代社長は、進さんのおばあさんのご親戚なんだとか。(おばあさんの旧姓は、西村さん)だから、たまたま名前が同じというわけではなく、じつはちゃんと関係がある。その後、2代目の旦那さんと久子さんが引き継ぎ、息子である進さんも修行後にお店に入って、一緒に運営してきた。文字通り、家族でつないできた昔ながらの果物屋さんだ。西村果実店に並ぶフルーツは、自宅用から贈答用までグレードもいろいろ。幅広いニーズに対応できるように、たとえば桃ひとつにしても硬めとやわらかめ、両方用意しているのだとか。道ゆくお客さんの目に留まりやすい軒先には、いちごやバナナ、みかんなどの一つから買いやすい手頃なフルーツを、そして奥にはご進物用や高級なラインを配置している。取材中も、商店街を歩く人たちがふらっと立ち寄って眺めていく。商品の仕入れはすべて、進さんが担当。毎朝4時に巣鴨の市場から仕入れてくるのだという。それぞれの果物の旬に合わせ、種類や産地も時期によって少しずつ変えていく。たとえば、スイカの場合は熊本から始まり、夏が後半に差し掛かると山形や北海道といった北の方へと移っていく。昔はいわゆる“セリ”があったそうだが、今は市場で値段のつけられたものを購入するというのが主流らしい。だから、いいものを狙って買うには、朝早く市場に出かける必要があるのだ。進さん曰く、果物の良し悪しはやはり「目で見ないとわからない」そう。ちなみに、フルーツ専門店が仕入れてくる“いいもの”というのは、八百屋などで置かれている商品とはまた違うのだと、久子さんは言う。「フルーツにも階級があって、その中でいいものだけを選んで買うのが果物屋。どうしても値段も高くなるから、八百屋さんは同じものを仕入れられないんです。だからこそ、おいしいフルーツを食べたいという方たちは、果物屋に来てくださるんですよね」なるほど。今では、八百屋でもスーパーでも果物がたくさん売られている。それに見慣れていると、フルーツ専門店で価格を見たときに少し高く感じてしまうけれど、そもそもランクが違うのだから当たり前なのだ。さらに、その中でも専門店ならではの知識と目利きをもって仕入れられる果物たちだからこそ、味も間違いなくおいしい。「八百屋さんと同じでは意味がない。専門店ならそれ以上の味を」。そこには、フルーツ専門店としてのプライドが垣間見える。▲ 母・久子さん直筆の商品札(達筆!)。添えられた一言にも味があっていい。それでも、いわゆる「ザ・高級店」という構えではなく、まちに根付くお店としてできるだけ地域の人たちが買いやすい価格設定を続けてきた西村果実店。今ではもう、このエリアに残る唯一のフルーツ専門店になった。「常連さんたちに支えられています。うちの店を目指して来てくれるお客さんが結構いらっしゃるんですよ」嬉しそうにそう話す進さん。顔なじみのお客さんともなれば、だいたいのフルーツの好みや希望も把握しているのだという。「この前に買った桃、おいしかったよ」といった感想をお客さんから直接聞けるのが、進さんにとってこの仕事の醍醐味。もともとお店を継ぐことに決めたのは「とくにやりたいことがなかっただけ」だと言うけれど、それで30年近く続けられるのはすごいことだと、心から思う。20代の頃から店頭に立ち続けてきた進さんの姿はもう、このまちの景色に欠かせない。「ふだん果物を買う習慣があまりない若い世代にも、ぜひ気軽に来てほしい」と進さん。今は何が旬で、味にはどんな特徴があり、どこを見て選ぶといいのか。自宅用はもちろん、ギフトの場合も含めて、一人ひとりのニーズに寄り添いながら、進さんや久子さんが丁寧に相談にのってくれる。こうしたコミュニケーションも、専門店ならではの魅力。何より、親切でやさしいふたりが相手だったら、わからないことも気遅れせずに質問できそうだ。▲ スーパーでは見かけない「ドラゴンスイカ」という珍しい品種も。糖度が高くて中身がギュッと詰まっているのが特徴なんだそう。まずは、自宅でおやつやデザートとして食べる用に、ひとつ買うところから始めたい。自分のお気に入りの果物だけでなく、その日店頭に並んでいる旬を味わってみる体験というのもきっと楽しい。夏はスイカパーティー、秋は梨の食べ比べ、みたいに季節ごとの定期イベントにするのもいいかもしれない。独り占めして堪能するもよし、友達や恋人、家族とシェアするもよし。数百円〜千円ちょっとで、楽しい思い出がひとつ増えると思ったら、なんとお手頃なことか......!あれこれ考えていたら、季節が巡っていくことがなんだか楽しみになってきた。皆さんもぜひ、西村果実店でフルーツのある日常を始めてみては?