取材に伺ったのは、まだお店がオープンする前の9時45分。「おはようございます!」という明るい声に迎えられて店内へ。そこで真っ先に目に飛び込んできたのは、ショーケースいっぱいに並ぶ宝石のようなケーキたちだ。まだ何ひとつ欠けることなく美しく整列するその様子は、静かな迫力がある。なかなか見られない光景にテンションが上がり、胸がどきどきした。ここは小竹向原駅から徒歩5分、緑豊かな住宅地にあるパティスリー「CRIOLLO(以下、クリオロ)」の本店。小竹向原以外に、中目黒店、麻布台ヒルズ店がある。ショーケースには定番のケーキに加え、季節のフルーツを使ったものや、フェア中の期間限定商品などが常時20種類以上。プリンやシュークリームもある。「この品揃えの多さは、本店ならではの魅力です。1か月ごとにショーケースの半分の商品ががらっと入れ替わるので、皆さん食べ逃しがないように一度に2〜3個買われたり、週ごとに違うものを買いにきてくださったりするんですよ」そう教えてくれたのは、店長の平田三千代(ひらた・みちよ)さん。2024年にクリオロに入社して以来、この本店で店長を務めている。▲ 取材時には桃のタルトがあったほか、キャラメルフェアが開催されていた。クリオロのケーキの一番の特徴は、”食感”を大切にしているところ。どのケーキも濃厚な味わいでありながら口当たりが軽いので、とくべつ甘党でなくてもおいしくぺろっと食べられてしまう。それでいて、物足りなさはないから不思議だ。過去に「板橋のいっぴん」にも選ばれた「幻のチーズケーキ」は、その軽やかさを存分に実感できる一品。2種類のチーズとメレンゲを合わせていて、濃厚なコクがありながらも、驚くほど軽やかかつさっぱり。しっかり満足感がある。「お子さまから大人まで幅広い年代の方に人気のケーキです。『今までチーズケーキは苦手だったけれど、クリオロのだったら食べられる』というお声をいただくことが本当に多いですね」もともとは、小竹向原で小さな製菓学校からスタートしたクリオロ。フランスのプロヴァンス出身のパティシエ、サントス・アントワーヌさんが、妻の岡田愛さんとともに「エコール・クリオロ」という名前で立ち上げた。ちなみに、エコールはフランス語で「学校」、クリオロはカカオ豆の最高品種の名前。チョコレートを得意とするサントスさんならではのネーミングである。洋菓子店を始めたのは2003年のこと。おとなりの千川に移転し、パティスリーとしても本格的に営業するように。その後、2016年には製菓学校を閉校し、「クリオロ」として再び小竹向原でリニューアルオープンをはたした。中目黒店、麻布台ヒルズ店と比べると、本店の売り場はゆったり広々。大きな窓からはやわらかい光が差し込む。周りに緑が見えるのも気持ちがいい。クリオロのブランドコンセプトは「身近な贅沢」。上質だけど親しみやすく、身近な存在でありたい。そんな願いが込められているのだとか。「性別、年齢問わず、どなたでも入りやすい空間づくりは意識していますね」と平田さん。住宅地にあるということもあり、お客さんの多くは地域の方たち。リピート率もかなり高いのだそう。接客を通して、これまで積み上げられてきたお客さんたちの“クリオロ愛”を感じるという。ショップの上の階には、ラボ(工房)が広がる。クリオロのほとんどすべての商品がここでつくられ、それぞれの店舗やオンラインショップ用などに振り分けられていく。フランス菓子らしい見た目の美しさを追求しつつも、日本になじむよう、サントスさんがつくりあげてきたクリオロのお菓子たち。その理念をもとに、現場のパティシエたちが日々心を込めて形にする。ケーキ、焼き菓子、チョコレート。バゲットも毎日ラボで焼き上げている。この日メインで並んでいたのは、ハードめのパンたち。シンプルなバゲットに、ソーセージパン、いちじくパン......。取材ではタイミングが合わなかったが、お昼頃になると「焼きたてフィナンシェ」が到着するらしい。どう考えてもおいしいに決まっている。そして、ワインやビール、コーヒー、紅茶、ジャムなどさまざまな“おいしいもの”が販売されているのも、クリオロの魅力。パティスリーでありながら、グローサリーストア的な一面も持っているのだ。「お菓子やパンと一緒に楽しんでほしい」というオーナー夫妻の思いを受け継ぎ、どれもこだわりをもって選び抜かれたものばかり。▲ ワイン担当のスタッフさんと一緒に、平田さんもセレクトしているのだそう。▲ もともと愛さんがお知り合いだった、コーヒーハンター・川島良彰さん厳選の豆を扱っているそう。ここでしか買えない、クリオロのオリジナルブレンドコーヒーも。眺めているだけでも楽しい店内。一部のコーヒーや紅茶は系列店でも取り扱いがあるそうだが、これだけ商品が揃っているのは、本店だけなんだそう。魅力的な商品はさることながら、同じくらい印象に残ったのは、スタッフの皆さんの丁寧な接客や気持ちのいい挨拶。そして、なにより楽しそうに働いている姿だ。それを伝えると、平田さんからはこんな言葉が返ってきた。「働くスタッフもみんな、クリオロのファンというのが大きいのだと思います」そう話す平田さんも、働く前からクリオロのファンだったらしい。ケーキのおいしさはもちろん、スタッフの接客に惹かれて入社を決めたひとり。いい接客の裏側には、スタッフ一人ひとりの愛があることを知った。そんな平田さんに個人的な好きなケーキについて尋ねると、「もちろんです!」と、楽しそうに語ってくれた。▲ 国際コンクール「世界パティスリー2009」のプチガトー部門で優勝。クリオロを代表するケーキのひとつ。お気に入りはたくさんあるが、一番最初に名前が出たのはこの「ニルヴァナ」。なめらかな口どけのブラックベリー風味のチョコレートムース、そしてブラックベリーのゼリーを合わせた華やかなチョコレートケーキだ。平田さんによると、バランスの良さが魅力。「結局ここに戻ってきちゃうんですよね」とにっこり。そして、こう続けた。「じつは私、自分ではチョコレートケーキを選ぶ方ではなかったんです。でもクリオロに来て、こんなチョコレートケーキがあるんだって。コクがあるのに軽やかで、すっかりお気に入りになりました」ちなみに、今ではコーヒーが大好きだという平田さんだが、クリオロで働くまでは飲めなかったらしい。お客さんの中にも、「幻のチーズケーキ」をきっかけにチーズケーキが好きになったり、季節のタルトを試してみたらフルーツのおいしさに気づいたり......なんて人もいたそうだ。それも、選択肢の多いクリオロならでは。自分が苦手だと思っていたものでも、じつはまだ好みのものに出会えていないだけということもたくさんある。好きだと思えるものに出会えれば、世界は広がる。日常の楽しみがさらに増える。もし迷ってしまっても、お店の商品のファンであり、その魅力を知り尽くしているスタッフの皆さんが、きっと素敵な提案をしてくれるはず。自分にとっての新しい“好き”を見つけに、クリオロを訪れてみては?